プロダクション・ノート

映画『チチを撮りに』の誕生

監督の中野量太は、これまでに短編映画を含む6本の自主映画を撮っている。それらのテーマは、すべて《家族》。その理由として、彼自身が6歳の時に父を病気で亡くし、母と兄と三人家族で生きてきたことが影響しているという。「幸せとは?僕が今生きている理由とは?僕なりの答えを、映画として表現しているのかもしれません。自分の内側にある思いを嘘なく映画にしたい。今はそれが《家族》なのだと思います」そんな彼が、「これまでの集大成的作品を作って勝負する!」と決意して2010年春に書き始めたのが『チチを撮りに』の脚本だった。第1稿が上がると、「映画化したい」とプロデューサーの平形則安(『三文役者』新藤兼人監督:00)に相談、貯金と親から借金して作った100万円の束を喫茶店のテーブルにドンッと出して熱い思いを伝えたという。その心意気は平形を動かし、映画制作にGOサインが出る。だが本格的な準備に入り、佐和役の渡辺真起子にオファーする予定だったその日に、東日本大震災が起きてしまう。準備は中断、中野は「こんなすさまじい事実を前に、フィクションの映画を撮る意味はあるのか」と悩み続けた。しかし、彼のテーマは《家族》、愛、そして人と人の繋がり。「今こそ、この映画を撮るべきだという思いに至り、より強い思いを持って」クランクインへとたどり着く。そして、2011年8月、猛暑の中、多摩川土手、JR足柄駅ほか、神奈川県、山梨県、静岡県の各所での撮休無しの11日間の撮影を敢行。こうして、『チチを撮りに』は、2012年2月に完成した。

母と娘達のキャスティング

「映画の世界にナチュラルに嘘なく存在できる人」というのが、中野監督のキャスティングのポイントだった。ラストシーンの、凜として立ち上がっていく母親像を脚本に書いている時に、「母親役は渡辺真起子さんだ」と思ったという。姉妹に関しては、映画『天然コケッコー』(07)で強く印象に残っていた柳英里紗と、中野の前作の短編映画『琥珀色のキラキラ』(08)で好演した松原菜野花が、現在の年齢も含めてそれぞれ葉月と呼春のイメージにぴったりで即決した。観る者の心に残る生き生きとした母娘像には、特定のモデルはいないという。「しいて言えば、人生で出会ってきた、人間くさい愛らしさを持った人たちがモデルです」

映画祭での受賞から劇場公開へ

『チチを撮りに』は、「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2012」において、2004年の映画祭発足以来、日本人監督として初となる「長編部門(国際コンペティション)監督賞」を受賞、および「SKIPシティアワード(国内作品を対象に今後の可能性を感じる監督に授与)」をダブル受賞。そして「SKIPシティ Dシネマプロジェクト」第3弾作品に選出され、劇場公開が決定した。中野監督は語る。「映画は、観客に観てもらって初めて映画になると思っているので、賞を頂き、たくさんの人に観てもらえる可能性が増えたことが何より嬉しいです。映画を学び始めてから15年、念願の劇場公開デビューです。小さな話ですが世界中の誰の心にも届く映画を作ったつもりです。より多くの人に観てもらえるよう、僕らしく泥臭く、ビラ配りしながら劇場公開初日を迎えられたら幸せです」

SKIPシティDシネマプロジェクトとは…

デジタル映像産業における優秀な人材の育成・輩出など、さまざまな事業を行うSKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ(埼玉県川口市)が推進する若手映像クリエイター育成のための上映支援事業です。“映画祭から映画館へ”を掲げて、「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」にエントリーされた 良質な作品を厳選し、より多くの方に鑑賞していただけるよう、劇場での公開を支援するプロジェクトです。

SKIPシティDシネマプロジェクト http://s-dp.com/